はじめに
2025年5月にセブン&アイ・ホールディングスの社長に就任したスティーブン・ヘイズ・デイカス氏が発表した「2030年度までに国内で1000店舗増」計画が、業界に大きな波紋を呼んでいる。
コンビニ市場が飽和状態とされる中、この野心的な計画は果たして実現可能なのだろうか。新社長の華麗なる経歴と、セブンイレブンが直面する課題を交えながら、この大胆な戦略の背景を探ってみたい。
デイカス氏の華麗なる経歴 – 多国籍企業を渡り歩いた「経営のプロ」
スティーブン・ヘイズ・デイカス氏(64歳)は、まさに国際的な経営のエキスパートといえる人物だ。
1960年11月7日にカリフォルニア州で生まれ、母親が日本人というハーフでもある。日本語も堪能で、日本のビジネス文化を深く理解している。
彼のキャリアは実に多彩だ。1983年にサンディエゴ州立大学を卒業後、ノースロップエアクラフトで社会人生活をスタート。
その後、米国公認会計士の資格を取得し、大手会計事務所クーパース&ライブランド(現プライスウォーターハウスクーパース)で経験を積んだ。
特筆すべきは、彼が異なる業界で次々と成功を収めてきたことだ。
1994年にマース(M&M’sで有名な食品大手)に入社し、
2001年にはマスターフーズの社長に就任。
2005年からはファーストリテイリング(ユニクロ)でシニア・バイス・プレジデントとして海外事業を担当した。
ウォルマート時代の実績 – 西友再建の立役者
デイカス氏の経営手腕が最も発揮されたのは、ウォルマート・西友時代だろう。
2007年にウォルマートに入社し、2011年から西友CEOを務めた。
当時の西友は厳しい経営環境にあったが、彼のリーダーシップの下で6期連続の増収増益を実現するという驚異的な成果を上げた。
「個人が勝つのではない。チームが勝つのだ」というウォルマート創業者の理念を体現し、東日本大震災という困難な時期にも組織をまとめ上げた手腕は高く評価されている 。
その後、2016年にはスシローグローバルホールディングスの会長に就任し、回転寿司チェーンの成長戦略にも関わった。
多様な業界での経験が、彼の経営者としての幅広い視野を培ったといえるだろう。
セブンが直面する深刻な課題
デイカス氏が舵取りを任されたセブンイレブンは、近年厳しい状況に置かれている。
2025年2月期の決算では、国内コンビニエンスストア事業の営業収益が9041億5200万円(前年同期比98.1%)、営業利益が2335億5400万円(同93.2%)と減収減益に陥った。
「上げ底弁当」問題が象徴する信頼失墜
特に深刻なのは、「上げ底弁当」問題に象徴される消費者からの信頼失墜だ。
弁当容器の底が上げ底になっているとの批判が相次ぎ、SNS上では「だまされた気分になる」との声が多数投稿された。
2024年10月には、当時の永松社長がこれらの疑惑を「なってませんでしょう?(笑)」と一笑に付したことで、さらに消費者の反発を招いた。
コンビニ大手3社で「独り負け」状態
2024年6~8月期の業績では、セブンイレブンはコンビニ大手3社の中で唯一「独り負け」状態となった。
ローソンやファミリーマートが堅調な成長を続ける中、セブンだけが売上の伸び悩みに苦しんでいる状況だ。
デイカス社長自身も「近年はコンビニからディスカウントストアに顧客が流れる傾向がある」「当社は”食”に強みを持っていたが、競合他社が追い付いてきた」と現状を率直に認めている。
飽和市場での1000店舗増計画 – その勝算とは
こうした厳しい状況の中で発表された「1000店舗増」計画は、一見無謀にも思える。
日本フランチャイズチェーン協会によると、コンビニの国内店舗数は2019年12月の5万5620店から2025年7月の5万5882店とほぼ横ばいで推移しており、市場の飽和は明らかだ。
デイカス氏の戦略的視点
しかし、デイカス氏には勝算があるようだ。
まず、彼が強調するのは「9月から、当社はコンビニ事業に特化した企業になる」ということだ。
これまでイトーヨーカドーやデニーズの再建に割いていた人材とリソースを、コンビニ事業に集中投入できる環境が整った。
また、セブン&アイは2030年度までの中期戦略で、営業収益を2024年度比13%増の11兆3000億円に増やす目標を掲げている。
国内で約1000店舗を純増させるとともに、既存店5000店以上に設備投資を実施し、カウンター商品などの強化で日販向上を図る計画だ。
北米市場との両輪戦略
注目すべきは、国内だけでなく北米市場でも1300店の新規出店を計画していることだ。
これは、成長が期待できる海外市場との両輪で事業拡大を図る戦略といえる。
実現への課題と展望
フランチャイズオーナーとの関係改善
1000店舗増を実現するためには、フランチャイズオーナーとの関係改善が不可欠だ。
近年の業績悪化や「上げ底」問題による信頼失墜は、新規出店意欲にも影響を与えている可能性がある。
差別化戦略の再構築
デイカス氏は「セブンは安くないものの、適正価格で圧倒的においしいものを提供している」という従来のイメージが棄損されていることを認めている。
競合他社が追い上げる中、改めて差別化戦略を再構築する必要がある。
デジタル化とイノベーション
ウォルマートやユニクロでデジタル化の経験を積んだデイカス氏にとって、セブンイレブンのDX(デジタルトランスフォーメーション)推進は重要な課題だろう。
店舗運営の効率化や顧客体験の向上を通じて、新たな価値創造を図る必要がある。
まとめ – 逆境を好機に変える経営手腕に期待
セブンイレブンの1000店舗増計画は、確かに野心的で困難な挑戦だ。
しかし、多様な業界で実績を積み、西友を6期連続増収増益に導いたデイカス氏の経営手腕を考えれば、決して不可能ではないかもしれない。
重要なのは、単なる店舗数の拡大ではなく、一店舗一店舗の価値向上と顧客満足度の改善だ。「上げ底」問題で失った信頼を回復し、「セブンに行けば間違いない」という消費者の信頼を取り戻すことができれば、飽和市場でも成長の余地は十分にある。
デイカス氏が掲げる「コンビニ事業への集中」「北米市場との両輪戦略」「既存店の価値向上」という3つの柱が功を奏するかどうか。
この挑戦的な計画の行方は、日本の小売業界全体にとっても大きな注目点となりそうだ。
こちらのリンクから他のタメになる情報を掲載してますので、
読んで頂けると嬉しいです。